粗忽長屋で蒟蒻問答

無駄な方便、無用の用、脳味噌を棚卸する、そんな雑草咄しと落語と書見

【随想】雑草ばなし

バッティングセンター[前編]

落語のなかに「首提灯」という噺がある。 酔っぱらいが夜道ですれ違った侍に悪態をついたことから辻斬りに遭い、あまりにも鮮やかに首を斬られたものだから、それに気づかずに、てんやわんやとする話だ。 もとい、最初のうちは斬られたことすら気づかずに、…

日常茶飯事

食いものの衝撃を感じなくなって久しい。 過去を振り返るに、えもいわれぬ美味さにその飯し屋へと通い詰める、ということをやった経験が幾度かある。 が、そういったことも絶えて久しいように感じられて、これはなかなかどうして、人生を損しているのではな…

搦手

先日、定期健診があった。 まいどのことだが、医者から運動しなさいと言われる。 常套句だとわかっちゃいるが、言われると、そうなんだよなぁ、運動しなきゃなぁ、とため息をもらし、次の日に忘れている。 当初は、何度か、試みたことはあった。 ランニング…

自然の摂理

先日、田舎のおふくろから電話がかかってきた。 滅多にないことなので、仕事中だが、なにごとかと思って電話に出てみると、まとまりのない、たわいのない話をしはじめる始末である。 こちらは仕事中である。 母親とは用件を話せない生き物なのか。 解せない…

頭から粉

そうじをしていて思うのだが、よくもまぁ、こんなにも髪の毛やちぢれ毛が落ちているものだと感じ入る。 神秘としか思えないのが、タンスの上などから陰毛を発見することだ。 ありえないところに紛れ込んでいる。 どうやってここに? なぜここに? と毎回思う…

奇癖

当代の現役噺家で贔屓にしているのが、柳家喬太郎である。 マクラや新作の語り口の軽妙さもいいし、古典もきっちり聴かせる力量に唸らされる。 現在ではあまりネタに上がらなくなった古典演目を高座にかけるということもやっている人で、そのなかに「擬宝珠…

蛇足

強い雨がふっている日に思うことがある。 クルマを運転する機会がわりと多いものだから、駐車してクルマに出入りしようとするたびに、気になることがあるのだ。 ドアの内側が濡れることである。 これが、気になってしょうがない。 車種にもよるのかもしれな…

隔世の感

ある年齢を超えたあたりから、「不快を減らす」方向に舵を切ることが大切なのではないかと思うようになった。 若いころは、「快を増やす」方向へと自然とむかう。ほおっておいても、むかう。 だがそれも、どこかで潮目がかわるときがやってくる。 快を増やす…

重複

重複を「じゅうふく」と云う人たちがいる。 間違いではない。 いや、正しいのだ。 だが一方で、それは「ちょうふく」でしょ、と腹のなかで口ずさむ自分がいる。 思い出がある。 小学生の頃だったと思う。 漢字テストで満点だと踏んでいた答案に、返されたと…

異彩

数日前に『ドラクエ10オフライン』のヴァージョン2が配信されたので、目下、プレイ中である。 このなかで、自分の琴線を揺さぶる出色のキャラクターがいる。 主人公や勇者姫の仲間で、おそらく歴代の登場キャラのなかでもかなり異質な部類に入るのではな…

ちょうどよいテロテロさ

からだを締めつける服が嫌いである。 よって、タイトな服は一枚も所持していない。 もっとも、メタボ化後、タイト化してしまった服はある。 背広はそれで買い替えするという、身も蓋もない始末が多い。 私服のほうは、それゆえ、つねにワンサイズ上を買うこ…

屹立

家の近所に鷺が飛んできた。 写真中央の白い点がそうである。 屋根の向こうには用水路があるだけの場所である。 なぜ、ここに? そう、思った。 調べてみると、集団で飛来する地域では害獣認定の憂き目にあっているところもあるそうである。 実害にあわれて…

粒が立つ

夫婦共働きなので、晩飯を一人で食することがある。 ありがたいことに、可能なかぎり自炊することをモットーとしているカミさんのおかげで、たいがいは晩飯の作り置きをしていてくれて、夜、冷蔵庫からそれをゴソゴソと引っぱり出してきて、いただいている。…

レーザーが追いかけてくる恐怖

呑み屋でしか顔を合わせない常連客のなかに、ゲーム好きの呑み友だちがいる。 そいつがしつこくすすめてくるのと、ひょんなことから、昨年、任天堂Switchを購入することにした。 正直、ゲームが下手である。 こちとら、小中学生のときのファミコン、スーパー…

場末の呑み屋の四方山話・その5 「黄色い太陽」

昨年亡くなられた故・アントニオ猪木さんを偲んで。 「ほら、俺、プロレス好きだろ」 「ああ」 「それでさ、猪木さんが亡くなったときに思い出したことがあってさ」 「なに?」 「いやさ、だいぶ前だからウル覚えだけど、むかし、なんかの週刊誌でさ、猪木さ…

場末の呑み屋の四方山話・その4 「目的地」

(註:今回は話者が3人となっております。車の運転をしない人にはピンとこないかもしれません) 「この前さ、クルマ運転してて、すごいことに気づいてしまった」 「なによ?」 「人生のことはすべてクルマで喩えることができる」 「ふぅん、たとえば?」 「…

場末の呑み屋の四方山話・その3 「陸側」

「おつかれ」 「おう、先にやらせてもらってるよ」 「おう。マスター、俺は、今日はビールじゃなくて、お茶割りにしようかな」 「2軒目?」 「うん、2軒目。ところでさ、聞いたんだけど、お前のところの後輩、怪我したんだって?」 「あー、あれな。そう、…

場末の呑み屋の四方山話・その2 「キセキ」

「マスかいてる?」 「なんだよ、いきなり。下ネタか」 「いや、わりとまじめな話」 「どうした?」 「いやさ、自分のところのガキの顔見ててさ、つくづく思ったんだよね、すごい確率で生まれてきたんだなって」 「どういうこと?」 「精子って、一回で何匹…

場末の呑み屋の四方山話・その1 「ビルの谷間」

「歳とったよなぁ……」 「まぁ、そうだな。どういうときに老いを感じる?」 「いやさ、このまえ結構な雨がふっただろ。それでうちの工場の敷地のなかに、そこそこの大きさの水たまりができてたわけよ」 「うん、それで」 「それでさ、これならイケる、飛び越…

目が合った

5月に入ったものの、肌寒く感じる昨日今日の天気にふと思い出す。 昨年の2月に新潟を旅行したのだが、その日は地元の方々も認めるほどの豪雪であるにもかかわらず、そんな天候のなかで上越市にある水族博物館うみがたりを観光した。 海沿いにある施設なの…

猿一匹

自宅のベランダで一服しつつ、思い出した。 昨年の7月、団地のなかを猿が歩いているのを目撃。 数日後、近所をクルマで走っていたら、またぞろ、ばったり遭遇したのだが、その後、どこへ行ったのだろうか。 近所の子どもなどが遊んでいるところで、その野性…

身を寄せあう

雨上がり、近所のコンビニで見かけた風景。窓枠に収まって、三匹。なにを想う。