粗忽長屋で蒟蒻問答

無駄な方便、無用の用、脳味噌を棚卸する、そんな雑草咄しと落語と書見

【読書】健康優良不良少年たちが闊歩するドープな近未来的世界 ──『AKIRA』(大友克洋)

コミックス刊行ならび映画公開から40年ほどを経てもなおリアルタイム感を損なわない強度を誇る、いまなお日本のマンガ、アニメーション作品の頂点に位置しているといっても過言ではないマスターピースである。圧倒的な画力、クールな音像性、そして最高にドープな世界観とストーリー。面白いマンガは数あれど、個人的に、ここまで"カッコイイ漫画"を他に知らない。

 

◾️ 出版社案内文

第3次世界大戦から38年、世界は新たな繁栄をむかえつつあった──。ネオ東京を舞台に繰り広げられる本格SFアクションコミックの金字塔!

 

◾️ 読みどころ私見

ふだんマンガを読むことはないのだが、何年かのバイオリズム?で妙にハマって読み漁る周期、時期というのがあって、最近、その熱がぶり返している。

読みふける周期のきっかけとなるのはたいがい、行きつけの床屋や定食屋、中華料理屋などで何気なくふと手に取ったものに目を通すのが事の始まりで、以前に読んだことのある作品でも、「あれ、この続きどうなるんだったっけ」といった具合に沼にハマり、その後、芋づる的にいろいろなタイトルをハシゴすることとなる。

ある種の熱病のようなものであるが、そして今日、そんなこんなで、とある過去の作品にグッと引き寄せられて、かつ懐かしさに絆されて、近所の書店で大人買いをしてしまった。

 大友克洋『AKIRA』(KCデラックス)全6巻である。

 

30年も前のことになろうか、中高生の頃に夢中になった作品である。

ヤンマガで連載していたが、当時、毎週ではなく不定期に掲載されていたので、次の話がいつ出るのかと待ちわびていたことを思い出す。

ストーリーも秀逸だと思っていたが、なんといっても画力が圧巻だった。

ひとコマひとコマをこんなにも細かく描くのかと感心したものである。

当時はそれこそ、連載が遅れるのも納得づくで、打ち切りにならず作品が無事に完成してほしいものだと応援していたくらいだ。

今回の再購入でも、相変わらずの圧倒的な迫力ある構図にあらためて舌を巻いた次第である。

 

この作品、映画のほうもすばらしい出来栄えである。

こちらももちろん、リアルタイムで映画館で観た。

公開中に近所の映画館になんども足を運んだものである。そんな作品、最初で最後だったし、当時の自分の琴線にいたく触れていたのだろう。

今回もマンガ読了後、映画のほうも観なおしてみたが、やはりよかった。

バイクはもとより、鉄雄のジャンクな義肢、金田が着ていたボーダーや薄ピンクのシャツ、ケイのグラサンやファッション、ジョーカーのペイント、春木屋の看板などなど、瑣末なところにもセンスを感じさせる。

マンガと映画とで、それぞれ異なる持ち味があって、両方ともいい。

あらためて読了、鑑賞してみて、連載当時はたしか、青年誌はヤンキー漫画全盛の頃だったと思うのだが、そんななか、まず舞台が近未来で、身なりはふつうな健康優良不良少年たちが"ドープ"な状況に巻き込まれながらもワルあがいて、闊歩、活躍する世界観をいたく気に入っていたのだろうなと思い返された。

 

ところでこの作品、"ドープ"という形容がぴたりとハマる。

「ドープ」ということばは「ドーピング」を語源とした英語スラングで、『AKIRA』の作中にもそれに類する描写が散見されるという意味でもぴったりだが、もともとヒップホップ系の音楽をはじめとする様々なジャンルの"イケてる"楽曲を形容するワードとして使われたそうで、「ヤバい」「最高」「カッコイイ」などを意味する。

つまりは、問答無用でクールな"音楽的"作品であるといいたいわけで、作中のさまざまなシーンからは音楽が浮かびあがってくるような、画力とあいまって音像を想起させるような、そんな圧巻の表現が随所に光っている。

実際、映画のほうで使われている芸能山城組のサントラも海外で傑作の誉高い評価を受けていて、上質な映像作品としての完成度も高い。

要するに、あらゆる面で他のアニメーション作品の追随を許さない傑作ということである。

 

それだけに、この作品のインパクトはかなり大きかったのだと思う。

その後の日本のマンガ、アニメーションの分水嶺とでもいえる画期的作品といってもいい。

ちなみに、何年か前に世界的にヒットしたマンガ『鬼滅の刃』(吾峠呼世晴)を読んだ際、このなかに登場するラスボス鬼舞辻無惨の最終形態が、こういってはなんだが"まんま"鉄雄の力の暴走後の肥大化した姿を摸しているとしか思えなく、パクリを疑ったほどである。

『AKIRA』既読者ならば誰しもが気づいたであろうが、まあ、パクリは言い過ぎだとしても、これはオマージュなのだろう。

『AKIRA』の影響力を推してはかるべき証左であって、この作品がいまなお尽きることのないイメージの源泉となって、後続のマンガ・アニメ作品にまで及んでいることは確かなのである。

さすが、金字塔といわれる作品だけのことはあると、あらためて納得した次第である。

 

◾️ 書誌情報

AKIRA(1)|出版社:講談社 (1984/9/14)|発売日:1984/9/14|言語:日本語|コミック:358ページ|ISBN-10:4061037110|ISBN-13:978-4061037113

AKIRA(2)|出版社:講談社 (1985/8/27)|発売日:1985/8/27|言語:日本語|コミック:306ページ|ISBN-10:4061037129|ISBN-13:978-4061037120

AKIRA(3)|出版社:講談社 (1986/8/21)|発売日:1986/8/21|言語:日本語|コミック:282ページ|ISBN-10:4061037137|ISBN-13:978-4061037137

AKIRA(4)|出版社:講談社 (1987/7/1)|発売日:1987/7/1|言語:日本語|コミック:394ページ|ISBN-10:4061037145|ISBN-13:978-4061037144

AKIRA(5)|出版社:講談社 (1990/11/26)|発売日:1990/11/26|言語:日本語|コミック:414ページ|ISBN-10:4063131661|ISBN-13:978-4063131666

AKIRA(6)|出版社:講談社 (1993/3/15)|発売日:1993/3/15|言語:日本語|コミック:436ページ|ISBN-10:406319339X|ISBN-13:978-4063193398