粗忽長屋で蒟蒻問答

無駄な方便、無用の用、脳味噌を棚卸する、そんな雑草咄しと落語と書見

【読書】あなたの「運命の楽器」はどれか? ──『オーケストラ楽器別人間学』(茂木大輔)

音楽に関心のある人なら、どなたでもおそらく気になるであろう話題。

すでに楽器をやっている人も、やっていない人も、数ある楽器のなかで自分と相性のいい楽器はどれなのか? ──関心をそそるお題ではないでしょうか。

この自分にとっての「運命の楽器」とはどれか、という質問について少しでもピンときた方がいるのならば、おすすめしたい本があります。

NHK交響楽団のオーボエ奏者、茂木大輔さんが書いた『〈決定版〉オーケストラ楽器別人間学』(新潮文庫、1996年)は、クラシックのオーケストラに登場する楽器たちとそれを操る奏者の人となりについて、おもしろおかしく掘り下げた、まさに"人間学"を展開している本で、けっして悪い意味ではなく極上の"ひまつぶし"時間を提供してくれる本といえましょう。

楽器をやる人はもちろん、やらない人も、この本を読めば、楽器が弾きたくなってウズウズするかもしれません。

 

◾️ 出版社案内文

あなたの運命は選んだ楽器が決めていた! まさかと思ったホルン奏者のあなたは山奥育ちですね。ファゴットを始めたあなたは、最近お人好しになっていませんか。楽器と性格の関係を、N響首席オーボエ奏者が爆笑的にプロファイリングする禁断の音楽書。演奏者必携の名著を大幅リニューアル。指揮者、ソリスト、声楽家などを考察した「オーケストラ周辺の人々学」、「アマチュア・オーケストラ専門用語集」などを増補した決定版。〈巻末マンガ〉二ノ宮知子

 

◾️ 読みどころ

この本、楽器をやる人たちのあいだでわりと話題になる、「運命の楽器ばなし」について、おもしろおかしく、かつ大まじめに掘り下げた傑作本である。

初出が1994年なので(リニューアル出版された決定版としても、すでに5年を経過したが)、若い人たちには馴染みのない芸能人なども参照例として掲載されてはいるものの、そこを読み飛ばしても、「楽器をやる人あるある」が軽快に解説されている好著でもある。

こういったたぐいの本の独断と偏見と"おふざけ"は、それはそれとして温かく見逃してあげるのが、こころよい読者というものだろう。

それを差し引いたとしても、この本が興味のそそるテーマを扱っていることにはかわりない。

──いろんな楽器があるなかで、その人がその楽器を選んだのはなぜ?

この問いに興味の湧いた方は、ぜひに手にとって一読されることをおすすめする。

楽器経験者や音楽好きにとってはなおさら肩肘張らずに読めて、クスクス笑えること請け合いである。

ちなみに小生自身は、クラシックではないのだが、大人になってからジャズを演奏してみたくなって、コントラバスを習い始めた。

そのうえで、この本に書かれている「その楽器にとって典型的な奏者の代表的履歴書、身上書」を読んだときに、おもわず笑って吹き出してしまった次第である。

気軽に読めて、かつ、こういう楽しい読書体験はそうそうない、貴重なものではないかと思う。

けっして悪い意味ではなく極上の"ひまつぶし"時間を提供してくれる本である。おすすめである。

 

◾️ 書誌情報

出版社:中央公論新社 (2018/7/20)|発売日:2018/7/20|言語:日本語|文庫:310ページ|ISBN-10:4122066182|ISBN-13:978-4122066182

▼ 目次・所収

オーケストラ楽器配置図

序論 楽器と人間の不思議な関連性

第1章 楽器選択運命論 どんなヒトがどんな楽器を選ぶのか

【管・打楽器編】あるフルート奏者──北国出身、どことなくクリスタル/あるオーボエ奏者──演劇少年の突然の変身/あるクラリネット奏者──関西出身、パパはパイロット?/あるファゴット奏者──森にかこまれて育った純朴少年/あるサクソフォン奏者──ナウいポップス系から、いきなりクラシックおたくへ/あるホルン奏者──山奥育ち、ひたすら師の影を慕う/あるトランペット奏者──沖縄出身、まじめ少年の大スターへの道/あるトロンボーン奏者──運動部で鍛えた肺活量、気がつけばプロに/あるテューバ奏者──ブラバン少年の前に敷かれた、なだらかなレール/ある打楽器奏者──他人にはうかがい知れない、もとガリ勉少年の心のうち

【弦楽器編】あるヴァイオリン奏者──男子は都会派のエリートコースまっしぐら、女子はまじめ少女の順調路線/あるヴィオラ奏者──素直な性格となりゆきで、道は自然に開かれる/あるチェロ奏者──運命の決め手は父から渡された一枚のレコード/あるコントラバス奏者──「本の虫」からウクレレに開眼、コントラバスも独学/あるハープ奏者──ハイソの育ち、イギリス人の先生に師事、もちろん留学も

第2章 楽器別人格形成論 いかなる楽器がいかなる性格をつくるのか

【管・打楽器編】フルート──冷たさも軽みもそなえた貴族的エリート/オーボエ──ストレスに苦しみ、くよくよと細かい?/クラリネット──複雑さをひめた万能選手/ファゴット──愛すべき正義派/サクソフォン──一点こだわり型ナルシスト/ホルン──忍耐強い寡黙の人/トランペット──神格化された、やる気満々のエース/トロンボーン──温暖な酒豪、いつも上機嫌/テューバ──底辺を支える内向派/ティンパニ、打楽器──いたずら好きでクールな点的思考者

【弦楽器編】ヴァイオリン──陰影に富んだユニバーサルの人/ヴィオラ──しぶく、しぶとく、「待ち」に強い/チェロ──包容力とバランス感覚にすぐれた、ゆらぎのない人間性/コントラバス──泰然自若、縁の下の巨大楽器/ハープ──夢見がちな深窓の令嬢

第3章 オーケストラ周辺の人々学 オケの前後左右にはいかなる人々がいるのか

指揮者──勝ち組・安心・カタルシス/ソリスト(独唱、独奏者)──オリンピック級のアスリート/声楽家(ソロ歌手、オペラ歌手)──お姫様から小間使いまで/合唱団──笑い声が絶えない明るい集団/作曲家──本当の天才のみ/スタッフ(ステマネ、ライブラリアン)──裏方の主役たち/オーケストラ周辺の二刀流──マルチ、スイッチ、掛け持ち天才

第4章 有名人による架空オーケストラ この方々におねがいしてオーケストラをつくったら……

第5章 オーケストラ人間観察編 楽器とヒトとの不思議な関係

オケマンは語る「楽器とわたし」/楽器別適性判別クイズ/楽器別デートマニュアル/オケの宴会・楽器別相性論

[付録]アマチュア・オーケストラ専門用語集

中公文庫版文庫版あとがき

マンガ「のだめ的オーケストラ楽器別人間学」二ノ宮知子